ねぇ先輩、名前をよんで。
どうして知りもしない人の名前を呼んだ?
思い返せば、
不自然な点はいくつもあったのに。
『春先輩の笑顔が好きです』
彼女はそうやって俺に伝えたこともあった。
俺は彼女の前で笑顔を見せたことが
あっただろうか。
もう作ったような笑い方しか
出来なくなってしまった気がする。
忘れてしまった笑顔。
それなのに、
どうして彼女はそれを知っていたのだろう。
今考えてみれば簡単だった。
彼女は全部知っていたんだ。
優のことも。
俺のことも。
知っていて、
俺が名前で呼ぶことを受け入れてくれたんだ。
手についた傷がじんじんと痛みだす。
こんな痛みじゃ計り知れないほど、
俺は彼女を傷つけた。