ねぇ先輩、名前をよんで。
「ゆうちゃん」
名前をたくさん呼んで力強く抱きしめてくれる。
幸せなはずのこの瞬間は
嬉しさと不安との複雑な気持ちを呼び起こす。
ああ、なんて残酷な恋をしたんだろう。
本当は見ているだけで良かったのに。
先輩が幸せなら。
忘れられた恋なのに。
また好きになってしまった。
ずっとずっと好きだった先輩。
彼はもう心から笑うことはなくなった。
「ゆうちゃん」
たくさん名前を呼んで抱きしめる。
愛おしい表情を浮かべて私を見つめる。
でもその目は私を見ていない。
先輩は毎日、
私を抱きしめながら、
違う人を想って名前を呼んだ。
「ゆう」