ねぇ先輩、名前をよんで。




彼はそれしか言ってくれなかった。


キレイな花火がバンっと打ち上がる中。

私たちはそれを見ることなく立ち止まった。



人々が花火を見て声を上げる中。


何も言えず、

その場所を共有することもなくただそこに立っていた。


「もう暗いから送るよ」



気づけば花火は終わっていた。


それから私たちは

気まずいまま、暗い道をふたりで歩いた。


会話はない。

目も合わせない。


そんな状態で。


清水くんを嫌な気持ちにさせてしまった。


せっかく誘ってくれたのに。


「送ってくれてありがとう……」


私を家の前まで送った彼は

うつむき加減で言った。


「今日、来てくれてありがとな」


寂しげな背中を私に向けて歩き出す。


彼の背中を見て、ぎゅうっと胸が締めつけられた。


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