ねぇ先輩、名前をよんで。



隣にいる先輩にドキドキしながら


今日は何を話そうって

考えていた時が懐かしい。



「遅くなっちゃいましたが

ご卒業、おめでとうございます」


私がそう言うと、先輩は微笑んだ。


「卒業した後は何かするんですか?」


「大学に通うことにしたんだ。

医学を学びたいって思って

都内の学校に行くことに決まった」


「そうだったんですね……」


「まさか卒業出来るとは、

ここにいた頃は思ってなかったな」


しばらくの沈黙の後。


先輩はゆっくりと話し始めた。

青々と光る空を見つめながら。


「もう、ここに逃げてくるのは……やめたんだ。

ゆうって名前じゃないんです、って言われた時から

俺もこの場所には一度も行ってない」



「え……」



知らなかった。






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