ねぇ先輩、名前をよんで。
過去を懐かしむ顔には少しの明るさが見える。
でも懐かしいと思っているのは
あの頃の私のことじゃない。
きっと先輩の大切な人を想っての言葉だ。
分かってる。
何にも望みがない中で、
何もいらないから側にいたいと思ったんだ。
だから、無欲でいなくてはいけない。
私は先輩に何も求めてはいけない。
その時。
私のスマホがポケットの中で震えた。
「あ、」
画面を見てみると、
そこに書かれていたのは【お母さん】という文字だった。
「すみません、母から電話が……」
「うん。話しておいで」
私は先輩の側から離れると電話に出た。
「もしもし」
「もしもし?」
「何?」
「今日の朝お父さんと話しててね。
外でご飯食べようかってことになったの」