ねぇ先輩、名前をよんで。


力強く握りしめる。

彼の手はいつも冷たい。


じわじわとぼけていく視界のまま、先輩の顔を見る。


「俺だったら、なんて言わないで」


私は必死にそう伝えた。


まばたきをした瞬間。

ぽろっと涙がこぼれて頬を伝う。


先輩が好きな分。

きっと私はいくつもの涙を流すだろう。


私の言葉に先輩は小さく手を握り返す。


そして私の瞳に手を伸ばして言った。


「ゆうちゃんって……

人のためにこんなにキレイな涙を流すんだね」


こぼれた涙を拭ってくれる先輩は

手が少し暖かくなっていた。


「本当に優しいね」


ぎゅっと私を抱きしめる。


「ゆうちゃん」


いつもみたいに名前を呼んで。


優さんと重ねて、先輩は抱きしめた。


温かい温もりに包まれながら、

行き場のない心が満たされることはない。



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