君の日々に、そっと触れたい。
Prolog
こんな話をしたら、君は驚くかな。
私はもうすぐ、27歳になるんだよ。
今はある高校で、カウンセリングの先生をしている。君は意外って笑うかな。
そこには、君と出会った頃の私のようにたくさん悩んで苦しんでいる学生が訪れるんだ。
今日も、またひとり。一年生の女の子が来たよ。彼女は泣きながら言った。「もう死んでしまいたいって思ってしまったんです、どうしよう」って。
それがまるで、あの頃の私みたいに見えた。
だからね、私、君の話をしてあげたよ。
君と出逢えた、奇跡の話。
誰よりも強く生きた、君の話。
だって私は今でも、一瞬一瞬零すことなく覚えてる。
まだ少し冷たい、春の海。君の声。
初めてのカップラーメン。
身長が足らなかった昆虫採集。
チャレンジ出来なかったバンジージャンプ。
つまらなくって思わず笑った映画。
ふたり、逃げ出した病室。
広すぎる隠れ家。
ハリボテの結婚式。
緊張して震えた、幼い誓いと唇。
私たちは世界一幼くて、一生懸命な恋をした。
蘇る記憶はこんなにも鮮やかなのに、まるで全部、夢だったんじゃないかと思う時がある。それはきっと、君と過ごしたあの時間が、夢の中みたいに幸せだったせい。
君が隣に居るだけで、眩しいくらいに幸せだった、あの頃。
今でも、瞼を閉じれば鮮明に蘇る。
君と過ごした、たった一年間。それでも掛け替えのない、大切な日々のこと……。