君の日々に、そっと触れたい。



────それなのに………。




「…李紅……李紅、朝よ」

そう軽く肩をゆする母さんの声で目が覚めた。

いつも以上に瞼が重く、ぐらぐらと視界が回る。

寝起きとは言え、経験と勘ですぐに分かった。今日はあまり体調が良くないらしい。


「……李紅?もしかして、体調悪いの?」


心配そうに眉をひそめて、母さんは俺の顔を覗き込んだ。

小さい頃から俺の闘病生活を1番近くで見てきたから、母さんは俺の不調にはすごく敏感。


「辛いなら今日は学校おやすみする…?」

「大丈夫だよ、眠たいだけ。それより母さん、今日はホスピスの先生と話あるとか言ってなかった?」

「ええ、そうよ。でも李紅が具合悪いなら日にちをずらしても……」

「そんなの先生に悪いよ。それに俺なら大丈夫だから」


そう言って内心慌てて起き上がると、がんがんと前頭部が鈍く痛み、耳鳴りが頭に響く。

それを長めの瞬きでやり過ごすと、不調を悟られまいと足早に洗面所に向かった。


「李紅〜?今日はお父さんも編集部へ行ってて居ないから、李紅ひとりになっちゃうけど」

「うん平気、学校行くし。鍵はポストに入れておくね」

「……そぉう?」


母さんは腑に落ちない様な顔をしながらも、なんとか誤魔化されてくれたみたいだった。



───普段ならこんな風に自分の不調をひた隠しになんてしたりしない。


だけど今日は、どうしても学校へ行かないと。委員会を今井に丸投げにはできないし、せっかく今井と、皆と仲良くなるチャンスなんだから………。


実際、いつもならこんな頭痛は痛み止めを飲めばある程度治まる。





< 10 / 115 >

この作品をシェア

pagetop