君の日々に、そっと触れたい。
「残したい」
李紅の言った通り、李紅の咳は夜通し続いた。
最初のうちは背中を摩ったりしていたのだが、私が眠れていないと李紅が気にするだろうと思い、途中から寝たフリをした。そのうち、お互いに本当に眠っていたみたいだけど。
問題は、夜よりも朝だった。
起き抜けに襲ってくる酷い頭痛。李紅は私より先に目が覚めたけれど、目が覚めて二時間が経った今でも頭を抱えてベッドから起き上がれないでいる。
「昨日コンビニで一応、簡単に食べれるものいくつか買ったけど、李紅は……無理?」
「……うん、ちょっと無理。食べれても薬飲めるわけじゃないし……」
今まで李紅は、気分が悪くてご飯が食べれなくても点滴である程度栄養補給ができたし、痛み止めで症状を抑えることが出来た。
だけど、ここは病院じゃない。李紅は耐えるしかない。その現実が、2日目にして早くも重くのしかかってきた。
「……生理痛の薬ならあるよー」
「………………」
小声でそう主張すると、李紅は青白い顔の表情を固まらせ、苦笑いをした。
「いーよ、なんか恥ずかしい……」
「でも、効くよ多分!ほら、”頭痛・生理痛に”って書いてあるし!」
「………………」
「ないよりは良いって!」
「…………わ、わかった。それちょうだい…」
非常に不本意だけど、と李紅は念を押すように言いながらも、渋々その生理痛薬を飲んだ。
「黒歴史確定だな……」
「ま、まあ!私が今日麓に買い出し行く時にちゃんとした市販の頭痛薬買ってくるから!食間で飲めるやつ!」
「そうだね……」
李紅は申し訳なさそうに微笑んだ。
李紅の性格なら「俺が行く」もしくは「俺も行く」とでも言いそうなものだが、自分の身体では山を往復しての買い出しなんて無理だと、さすがの李紅も妥協したらしい。
李紅は私以上にこの生活の、先が見えてるのだろう。
きっと苦労ばかりの生活が始まるんだ。
私が、しっかりしないと。李紅に余計な負担はかけられない。