君の日々に、そっと触れたい。
引き金を引いたように、抑えていた何かが暴発する感覚がした。
黙り込んだ俺を心配してくれる桜を他所に、その唇を噛み付くように塞いだ。
「………り、く…………」
唇を離すと、見開かれた真っ黒い瞳と目が合った。
やけに静かな夜だ。桜の、強ばった息遣いだけが空間を支配して、なにかに酔いそうになる。
「…………桜に、俺を残したい」
桜は、はっと息を飲んだ。
強ばっていた桜の細い手首から、力が抜けたのが伝わった。
「…………………いいよ」
桜が、そう重く呟いた。
「…………っ…」
合図だ、とそう思った。
買ったばかりの真新しいシャツに手をかけた。真っ白いボタンを、順に外して、その柔肌に触れた。桜は熱い息を零しながら、応えるように俺のズボンのベルトに手を掛けた。
何を知っているわけでもない。
経験なんて、もちろんない。
だから欲するままに、求めるままに、乱暴に抱いた。
ぎこちない甘い声も、間を埋めるような下手くそなキスも、何もかもがこの衝動を駆り立てていく。
「桜……」
「…………李紅」
壊れた玩具のように、一晩中互いの名前を呼び合う。
だけど足りない。もっと俺の名前を呼んでくれ。
他の誰かになんて絶対譲りたくない。桜が、俺を想って一生泣き続ければいいのにと、本気で思う。
もうこれまでに、数え切れないほどたくさんのものを奪ってきたのに。
「………………俺の運命ごと、桜にあげるよ」
最低の我儘を、どうか今夜だけは。