君の日々に、そっと触れたい。
家の場所は知ってる。
少し前にアイツが学校を休んだ時に、じゃんけんに負けてプリントを届けに行ったことがあるから。
あの時は本当に面倒くさくて、学校から徒歩たった10分の距離なのにイヤイヤとアイツの家に足を向かわせていたのに、
それがどうだろう、今は自らアイツの家に向かって走っている。
特別な理由はない。ただアイツが俺の名前を出したから、ほっとけなかった。
表札を確認するなり、俺は走ってきた勢いのまま、少しばかり乱暴にインターホンを鳴らす。しかし、応答はない。
「くそっ……なんで返事しねぇんだよ!」
訳も分からず不安になる。妙な焦りから、苛立ちすら感じた。
もうどれだけインターホンを鳴らしても無意味だと悟り、ダメ元で玄関のドアノブに手を掛ければ、不用心にも扉が開いた。
こうゆうのを不法侵入と言うんじゃないか、と一瞬躊躇したが、途端に我に返って、ずかずかと玄関から上がり込んだ。
「入るぞ!おい、どこだよ?」
そう叫んでも相変わらず返事はない。
よく考えてみれば、アイツが家にいる確証なんて一つもないんだ。電話を聴いた限りでは今アイツは一人で居るらしいことは分かったが、誰も家に居るとは言ってない。
実際、今この家には人気というものも、物音すらもない。
「くそっ……振り出しかよ!」
苛立ちからそう乱暴に叫んだ声が、どこかで反響した。
受話器越しのようなノイズ混じりで、ほんの僅かな時差で反響する自分の声。
そこでやっと、俺は自分が手に持った携帯が、まだアイツとの通話が切れていないことに気付いたのだ。
「てことは……ここにいるのか…?!」
戸惑いながらも反響する自分の声を頼りに辿り着いたのは、洗面所らしき部屋だ。
俺は恐る恐るその扉を開けた。