君の日々に、そっと触れたい。

「………………っおい!?」


思わずそう震える声をあげた。

俺の考えた通り、扉の向こうにアイツはいた。

ただ、明らかに様子が変だ。冷たい床に横たわったまま、不自然な呼吸に揺れる肩。


ただ事ではないと、近づくまでもなく悟った。


「お、おい………っしっかりしろ…!!」


慌てて駆け寄り、肩を揺すりながら顔を覗き込んだ。するとソイツは、う……と小さく呻き声を上げながら、ゆっくりと瞼を持ち上げた。


「え……………いま…い…?」


そう驚いたように目を見開いたその顔は、白を通り越して土のように血の気のない色をしていた。


「…どうして……」

「それはこっちの台詞だ!なんでこんなとこに倒れてんだよ?!」

「………あたま、いたくて……」


そう言ってへらりと笑うコイツ。笑ってる場合じゃない。


「ただの頭痛でこんなことになるか?普通。これ結構やべーよな……救急車、呼ぶからな」

これはもう救急搬送レベルだと判断し、救急車を呼ぼうと自分の携帯を手にした瞬間、

「駄目……!」

コイツは形相を変えて俺の手首を掴み、それを制した。


「駄目ってお前………だって気失うほど頭痛かったんだろ!?」

「………ちょっと、目閉じて休んでただけだよ……」

「嘘つくな、俺が玄関先でいくら叫んでも無反応だったじゃねぇか!」

「…………それは……」


言葉を詰まらせながらも、コイツは相変わらず手を離さない。


「……とにかく……嫌なんだ。まだ……まだあそこには行きたくない…」

「はぁ?どーゆうことだよ?あそこってどこだよ……?」


その問い掛けには応える気がないらしく、ソイツは静かに目を逸らした。

それでも、俺の腕からは手を離さない。



簡単に振りほどける力だったが、その諦めの悪さに、俺は仕方なく折れてやることにした。

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