君の日々に、そっと触れたい。


「だから、こうゆうことだよ」

「え?」


李紅は笑いすぎて目の端に浮かんだ涙を払いながら、そう唐突に言った。


「俺は桜に生きていてよかったって言わせたいんだ。絶対に。その為には、桜といる時間はいつだってこんな風に笑い合える時間でありたい」

───笑い合える時間………?


「だから、桜には余計な心配かけたくなかったんだ」




”桜に生きててよかったって言わせる”



あのノートに刻まれたあの願いを思い出した。

絶対に叶えると、李紅は真剣な目をしていたっけ。

差し出された手を握ると、李紅は心底嬉しそうに笑ってくれた。

その笑顔を見て、信じてみようかなって思えたんだ。もう少しだけ頑張ってみようかなって。



「どうして…………そこまでしくれるの?」



純粋な疑問だった。


だって李紅には、時間が無い。

たった一年しかない時間。一分一秒も無駄にしたくないと言っていたのに。どうして私のために費やしてくれるの?


「どうしてって言われてもなぁ……」


純粋な疑問とはいえ、それなりに深い質問をしたつもりなのに、李紅は一瞬たりとも考え込むこと無く応えた。




「俺、桜の笑顔が好きなんだ」




何の恥ずかしげも無くそう言い放った李紅。

当たり前のことだとでも言うように、あっけらかんと笑う。


「だから桜にたくさん笑って欲しい。それだけだよ」


柔らかく細めたその蒼い瞳に、惹き込まれそうになる。



───……いつもそうだ。



出会った時から、ずっとそうだった。

李紅が私にくれる言葉は、適当なことを言っているようで、いつだって確実に私を救い出してくれる。

まるで、魔法みたいに。


「私は…………」


私には、魔法みたいな素敵な言葉は言えない。


「生きていてよかった、のかは…よく分からないけど………」


だけど、自分の気持ちを伝えることは出来る。

だって、きっとそれだけでも、李紅は手放しに喜んでくれるんだろう。




「李紅と過ごす時間は、どんな時間でも楽しいよ」




李紅と過ごせるなら、どんな時間でも。

そう、例えばこんな日みたいに、ベッドから動けないとしても。

楽しいよ、心の底から。

それは、いつでも変わらずに李紅は私に笑顔をくれるから。


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