君の日々に、そっと触れたい。

「ごめん、それでも傍に居て」




翌日、李紅は結局 海辺には来れなくて、私は今日も李紅の家に足を運んだ。


「あら、いらっしゃい桜ちゃん!きょうも来てくれたのね」


今日は夕実ちゃんに会わなかったから、一人での訪問。少し緊張したけれど、李紅のお母さんの優しい笑顔ですぐに和らいだ。


「李紅ね、今リビングでテレビ見てるのよ」

「え、起きてて大丈夫なんですか?」

「もうだいぶ良くなってきたのよ。暇すぎて死にそうだぁって喚いてたくらいだもの」

「はは………」

本当に一年後に死んじゃう人が言うと、ちょっと洒落にならないような……。

思わず苦笑いをする私に対して、李紅のお母さんは特に何も気にしてないらしく、キョトンとした表情を浮かべている。
李紅のマイペースは、お母さん似だろうか。


リビングに案内されると、毛布にくるまった状態でソファーに座った李紅が、真剣な顔をしてテレビを見ていた。


「李紅、桜ちゃん来てくれたのよ」


相当見入っていたみたいで、お母さんに声を掛けられてようやく私の存在に気づいたようだ。


「桜っ!」


私の姿を見るなり、勢い良く立ち上がる李紅は、まるで幼い子供のように喜んでいた。思わず頬が赤くなる。


昨日、自覚した。私は李紅が好きなんだと。

だからと言って二人の関係としては、何が変わったわけではないのだけれど。


「李紅、元気そうでよかった」

「うん元気。学校もちょっとまだフラフラするから休んだだけなんだ。それに海辺に行かなくても桜が会いに来てくれるから」

そう嬉しそうにはにかむ李紅。

昨日の私の言葉は、なぜか相当嬉しかったらしい。

< 30 / 115 >

この作品をシェア

pagetop