君の日々に、そっと触れたい。


「落ち着いた?」


「……うん、ありがと」


いいえ〜、と微笑む李紅からタオルを受け取る。


洗面所で泣き腫らした顔を洗い、私は今李紅の部屋にいる。

あれから少し落ち着いた頃にはもう時計の針は9時を回っていて、せっかくだから止まっていけばとお母さんが提案してくれた。

それはさすがに悪い、という気持ちもあったけれど、今日は1人になりたくないという気持ちもあり、お母さんの優しさに甘えることにした。


───と、そこまでは良かったものの…。


「桜、やっぱりベッド使いなよ。俺ので悪いけど」

「いやいや、そんなわけには…!」


私たちは今どちらが李紅のベッドを使うかという問題で揉めている。


どちらにしても、2人仲良く並んで眠らなくてはいけないのだけれど。


というのも、この家には一応客間があるものの、泊まりの来客なんてめったに無いから、とお父さんが完全に自分の物置にしていて、とてもじゃないが今すぐ使えるような状態ではないということ。

かといってお父さんとお母さんの夫婦水入らずの部屋で一緒に眠るなんて絶対嫌だし、リビングのソファーで寝る、という提案には三人揃って反対された。

結果的に消去法で李紅の部屋で寝ることになったのだ。


思春期の男女が同じ部屋で一晩眠るなんていかがなものかとも思ったけど、その辺はまったく気にしてないらしいお母さんたち。やっぱり李紅の能天気は親譲りか。


「女の子が雑魚寝なんてダメだよ!体痛くなっちゃうだろ?」

「大丈夫だよ。私アパートで毎日雑魚寝してるし。てか李紅こそ雑魚寝なんかしたことないでしょ?」

「………そうだけど……」

「でしょ?私は床の方が落ち着くからいいの」

そこまで言うと李紅はようやく押し黙った。納得いかなそうな顔をしていたけど、まだ本調子じゃない李紅を雑魚寝なんてさせられないし、なにより私が……

いつも李紅が寝てるベッドで寝るなんて、意識しないでいられるはずがない…………!


そうでなくても、同じ部屋で寝なきゃいけなくて心臓バクバクなのに!


誰かに恋するって、こんなにめんどくさいのか………。

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