君の日々に、そっと触れたい。
「あ、ねぇ……これアルバムだよね?見てもいい?」
少しでも緊張をほぐそうと、棚にしまわれていたアルバムに目をつけた。1冊目の背表紙には、「李紅2~7歳」と書かれている。
「別にいいけど、つまんないよ?」
「いいのいいの、暇だから」
そう言ってアルバムを開くと、まず最初に出てきたのは2歳の誕生日の写真だった。お母さんにだっこされて、プレゼントのクマのぬいぐるみではしゃぐ、可愛らしい写真。
2枚目のお父さんと笑っている写真には、『2歳4ヶ月、初めて 立った日』と書かれていた。
「2歳4ヶ月で初めて立ったって……随分遅くない?」
自分が何ヶ月で立ったかなんてさすがに覚えてないけど、孤児院では何人か赤ちゃんも見てきた。でも遅くても1歳半くらいにはみんな立てるようになってた。
「ああそれね、さすがに母さんもおかしいと思って病院に連れてったら膝に腫瘍があったんだって。
それですぐに左脚を切断するつもりだったんだけど、俺がその日急に立てるようになったから、やめてくれたんだってー」
「そう……なんだ」
2歳……そんな小さな頃から、李紅の闘いは始まってたの…。
「そんな顔しないで、桜。この日俺が立てたおかげで、今も俺はちゃんと脚があってしっかり立ってる。この写真はね、そうゆう素敵な記念日の写真なんだからさ」
そう言って李紅は、その写真をそっと愛おしそうに撫でた。
「………ねぇ、俺のアルバムなんてずっとこんな感じだよ?病院ばっかだし、見ていて辛くなりそうな写真もあるし…」
「……いいの、私 知りたい」
だって、ちゃんと知りたいから。
李紅のことなら、何でも知りたい。
私と出会うまでの李紅のこと、見ておきたいから。
李紅の言う通り、アルバムの写真は病院と家ばっかりで、遠出して撮ったようは写真は一枚もない。
それでも誕生日には必ず写真を撮っているらしく、特に大きく強調して貼られている。
ニット帽を被ってる年、酸素マスクをしている年、車椅子に乗っている年、色々な写真があったけれど、どんな姿でも李紅は同じ顔をして笑っている。
心底嬉しそうに。
「いいなぁ……」
そう思わず口にした。
李紅はすごく辛い思いをしてきたんだから、こんな事を言うのはきっと最低だ。だけど本当に心からそう思った。
羨ましいと思った。
どんな辛い時でも笑顔で居られる、その強かさが。