君の日々に、そっと触れたい。
「桜、俺はね」
小さな沈黙のあと、李紅はそう唐突に切り出した。
「一年後にいきなり心臓が止まって死ぬんじゃないよ。だんだんと色んなことが出来なくなるんだ」
まるで他人事のように、淡々と口にする。
「今こうして元気でいるのも、本当は魔法みたいな話なんだ。いつまでも続かない。だから病院を飛び出してやりたいことやり尽くしてやろうと思ったんだ。
それなのに、外の世界に触れれば触れるほど、手離したくないものばかり増えて……」
「…………手離したくないもの……?」
思わず聞き返すと、李紅はゆっくりと私の目を見て少し悲しげに微笑んだ。
「桜のことだよ」
───え……?
予想外の答えに息が止まりそうになる。
「え、私……?」
「うん。桜に身体のこととか現時点での症状とか話したくなかったのは、話してしまったら……せっかく笑い合えてるこの時間を、手放してしまいそうで怖かったからなんだ…」
李紅はらしくもなく不安そうな顔をしていて、なんだか私まで不安な気持ちになる。
「でも桜がさっき、知りたいって、アルバムを捲ってくれたから、桜なら受け止めてくれるんじゃないかな……とか、やっぱり全部話したいってゆう気持ちにもなっちゃって…」
「…うん」
「ちょっと…今、…どうしたらいいか分かんないんだ……」
そう弱く笑って李紅は俯いた。
本当に困ったように額に手のひらを置いた李紅は、いつになく儚く思えた。
どんな苦しみを抱えて、どんな思いで今日まで生きてきたのだろうか。
いくらアルバムを見ても、そのひとつも分からなかった。李紅が、笑顔の中に封じ込めてしまっていたから。
だけど私は、知りたいんだ。その全てを。
だったら答えは一つに決まってる。
「話して、全部」
君の言葉に、寄り添いたい。