君の日々に、そっと触れたい。
「……左膝の骨肉腫から転移して発症した白血病は、治療と再発を繰り返して年々酷くなっていった。それで昨年の春、俺はやっと移植手術を受けられることになって……、やっと救われる、そう思ったんだ」
やがて李紅は淡々と、だけど少し重い口調で、話し始めた。
「手術が終わった後も、GVHD…拒絶反応みたいなものなんだけど、それを半年かけて乗り越えて、リハビリをして、やっと退院できるって時…………肺に癌が見つかった」
思わず息を飲んだ。
そして、昨日の李紅の、なかなか止まらない咳を思い出して、ゾッと背中が冷たくなる。
「骨髄から癌細胞が浸潤してたんだ。ちゃんと検査したら、脳…中枢神経にも浸潤してた。挙句の果てに、骨髄の腫瘍も再発してた」
脳……再発……。
いろんな言葉が頭の中を駆け巡ってごちゃごちゃになる。
自分から知りたいと言い出した事なのに、耳を塞ぎたいとさえ思った。
「だけど二度目の移植は困難だって言われた。脳や肺のこともあるし、なにより術後のGVHDに耐えられるだけの体力が、もう多分無いって……。それで、先々月……ホスピスへの入院を薦められた」
「ホス……ピス?」
「……末期の患者さんが行くところ。緩和医療って言ってね、なるべく苦しまずに最後を迎えられるように手伝ってくれるとこ」
───最後…………。
今更驚くようなことじゃない。
私は李紅の名前を知るよりも先に、李紅が余命一年だって知ってた。
だから当然、死んじゃうような重い病気なのは分かってたし。
だけど、本当に分かってたのかな…?
いつも元気で明るい李紅を見て、そんなことすっかり忘れてしまえるくらいに、李紅の笑顔に騙されてたんじゃないの?
ずっとこの時間が続くような、そんな気になっていたんじゃないの?
李紅に恋をしてしまったことが、そのなによりの証拠だ。