君の日々に、そっと触れたい。



病院ってなんだか不思議なところだ。

こんなにたくさん人が居るのに、こんなに静かで穏やかなんて。

消毒っぽい匂いは慣れなくて苦手だけれど、これも李紅には馴染みのある匂いなのかもしれないと思うと、愛しく思えた。



私は今、昨日この病院で手術を終えた李紅のお見舞いに来ていた。



「B棟 6階、 607号室……」

しかし受付で面会票を受け取ったものの、想像以上の広さにどうしていいか分からず、未だに1階をうろうろしている。

すると、

「桜ちゃん!」

聞き慣れた声がして振り返ると、夕実ちゃんが嬉しそうに手を振っていた。

「夕実ちゃん!」

「桜ちゃん絶対迷子になるとおもて、迎えに来てん」

「ありがと〜なりそうだったぁ」

あれから夕実ちゃんとは、何度か李紅の家で会った。

夕実ちゃんは明るくて面白くて、人付き合いの苦手な私でも凄く親しみやすい。

私より李紅との付き合いが長いのには、やっぱりちょっと嫉妬してしまうこともあるけれど、前みたいな苦手意識はもうすっかり無くなっていた。


「李紅はどうしてる?」

「もうすっかり麻酔は抜けたみたいやで。歩き回れなくて退屈だって言ってずっとテレビ見とるよ」

「あはは、李紅らしい」

夕実ちゃんには私たちの関係については何も言ってない。

そもそも、私たちの関係は名前をつけられるものではないし。

それでも、きっと夕実ちゃんは私たちが想い合ってることに気づいてると思う。

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