君の日々に、そっと触れたい。
「…………ほら、うそじゃなかっただろ!」
「ほんとだぁ……ほんとにいるぅ」
不意に扉の方から聞こえたのは、子供の声だ。
どうして、と思って振り返れば、四、五人の子供たちがわっと一斉に病室に飛び込んできた。
「りっちゃああん!」
「りくだー!」
「りくぅ!」
子供たちはその勢いのまま李紅の身体に飛び込み、李紅は思わず仰け反った。私も思わず、きゃあと声を上げた。
「おお………びっくりしたー…」
「りっちゃんだぁ」
「ほんもののりくだ!」
そう目を輝かせた子供たちは、園児くらいから小学校高学年くらいまでの五、六人。
それぞれ頭にニット帽を被っていたり、点滴スタンドを引いていたりしていて、ひと目でこの病院に入院している子供たちだと分かった。
「こら、あんたたち!ドレーンが抜けたらどないすんの!」
「いいよ、ゆうちゃん。大丈夫だったから。─みんな、久しぶりだな」
そう笑って李紅は両手を広げて全員を一度に抱きしめ返した。
「だけどみんな、よく大人にバレずに小児がん病棟から整形外科病棟まで来たなぁ。しかも何で、俺がまた入院してるの知ってるんだ?」
「ありさがリハビリ室でりっちゃんのおかあさんみたっていってたからー!」
「へぇ…ありさ、リハビリできるようになったんだなぁ」
「ほんま?よかったなぁ」
子供たちと李紅の会話に夕実ちゃんも加わり、あれよあれよと言う間に私は完全に置いてけぼりをくらっているみたいだ。
───この子達は……夕実ちゃんだって、私と出会う前の李紅をたくさん知ってるし………しょうがないのかな……。
「ねぇりく、ほかのやつらにもあいにこいよ!」
「きてきて!」
「こらこら!無理言わんの!」
李紅に小児がん病棟に遊びに来て欲しいとせがむ子供たちを、夕実ちゃんが軽く叱る。それでも子供たちは「きてきて」コールをやめようとしない。
「おねがい!りくにいにあいたくてもあるけないこもいるんだもん!」
「うっ……」
ひとりの女の子の一言に、それまでは苦笑いであしらっていた李紅の表情が固まる。
「……………わ、分かった。だけど俺車椅子だから、だっことかおんぶとか、そうゆうのはナシな?」
「やったぁ!!」
子供たちは万歳をしては跳ね喜び、また夕実ちゃんに注意されてしまった。
初めて見る李紅の、お兄さんみたいな表情。すごく優しくて柔らかくて、また李紅を好きになったけれど、やっぱり私だけ置いてけぼり感は否めない。
そんな私の視線に気付いたのか、李紅は微笑んで私の手を引く。
「桜も一緒に来て。俺の大切な人だって、みんなに紹介したいんだ」
「へっ……?」
「彼女だよなんて言えないけど、大切なのは本当だろ?」
「李紅………」
ああもうなんで。
いちいちこんなに好きにさせてくるの。