君の日々に、そっと触れたい。
李紅が看護師さんを呼んで点滴やらドレーンやらを車椅子に移してもらうと、私たちは走る子供たちを宥めながらについて行く。
李紅の車椅子さばきは巧みで、乗り慣れているのだろうと伝わってくる。
それを敢えて手助けせずに、夕実ちゃんはまるで李紅を見守るように、数メートル後ろをゆっくりと追いかけている。
こちらもまた、慣れた様子。
そのままエレベーターに乗ったり、長い連絡通路を抜けたりして、なかなかの距離を移動すると、ようやくそれらしい病棟に着いた。
壁の所々に貼られた、小鳥やチューリップのイラスト。ナースステーションの横にはおもちゃで遊べるスペース。どうやら、目的の小児病棟で間違いないらしい。
「あ、りく!」
「りっちゃんだぁ!」
デイルームに居た子供たちは李紅の姿を見つけると、途端にわっと群がる。
「りくまたにゅういんなの~っ?」
「どれくらいいるの?!」
「なんで車椅子なのっ?」
「一度に聞くなよ。今回は膝の手術したんだ。しっかり歩けるようになるまで居るよ。2週間くらいかな?」
李紅は質問攻めに一人一人丁寧に答えながら、嬉しそうに子供たちの髪を撫でる。
そしていつも見せる、あの笑顔。
心がぽかぽか温まる、春みたいな笑顔だ。李紅の笑顔は、たくさんの子供たちまで笑顔にさせる。
「りっちゃん、変わったなぁ」
不意に、隣に立つ夕実ちゃんがそう小さく零した。
「…変わった?」
「いやな、1年前はもっと笑わへん人やったから」
「笑わない?李紅が?!」
思わず大きめの声を出す。
だって、あの李紅が笑ってないなんて、信じられない。
「あ、いや笑っとったよ?その時も。せやけどなんかわざとらしいってゆうか…無理して笑ってるって感じやったなって……」
「無理して…」
それもあんまり想像つかない。
李紅の笑顔はいつも自然だし、なんてゆうか本当に嬉しそうだ。
───やっぱり私………李紅のこと何にも知らないんだな……。
李紅が私の事を好きでいてくれてることに疑いはない。だけどよくよく考えたら私たちはたった3ヶ月の付き合いで。色々あったから随分長く感じていたけれど、たった3ヶ月だ。
そう考えたらなんとなく、落ち込む。
そんな私の心情を悟ってか、夕実ちゃんはニヤリと笑う。
「聞きたい?ウチとりっちゃんが出会った時の話」
「へっ?」
「あれ?興味あらへんかった?」
「あ、あるよ!だけど……」
いいのかな…。
上手く言えないけど、そこは私が踏み込んでいい場所なのかな。
私が李紅との出会いを大切にしたいように、夕実ちゃんだって……。
「ええよ」
私の気持ちに返事を返すように、夕実ちゃんは優しく囁いた。
「桜ちゃんになら、ええよ。ウチの中のりっちゃんを、桜にあげたる」
愛おしそうに目を細めた夕実ちゃんの視線の先には、李紅が居た。