君の日々に、そっと触れたい。

「未来が見えるんだ」

【夕実side】



高校一年になったばかりのころ、お母さんに顎のしこりを指摘された。

しこりは別に痒くもなければ痛くもなくて、せやのに念の為のつもりで病院行ったら県外の別の病院を薦められて、抗癌剤をやるとか言われて。

あれよあれよと言う間にウチは知らない土地で入院させられ、気分は完全にブルーやった。

だって花の女子高生だ。休学とか、髪が抜けるとか、受け入れられるはずない。


そんな時に出会ったのが、りっちゃんやった。


「俺、古城李紅。夕実ちゃん、だよね?ゆうちゃんて呼んでいい?」


りっちゃんは大勢の子供たちを引き連れてウチの病院に来て、唐突にそう言った。

正直、その時の第一印象は「なんやこいつ」だった。


「ゆうちゃん……て、あんさん年下やないの?」

「うん中一だよ。でもここではあんまりそうゆうの気にしないよ」

それに、と彼は続けて、嘘っぽく笑った。


「ここでは俺が一番先輩だよ」



後から、彼が二歳の頃からこの病院で入退院を繰り返してると聞いて、その言葉の意味を理解した。それから少しだけ、彼の存在を意識するようになったんだ。


彼はいつ見ても誰かと一緒におって、一人のことはあらへんかった。子供たちや、家族が、いつも傍におる。

せやからその日、彼が珍しくデイルームに一人でおるのを見掛けて、思わずトイレに向かう足を止めた。

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