君の日々に、そっと触れたい。
「誤解しないで。俺だってそうならなきゃいいっていつも思ってるよ」
そう低く呟いて、彼はゆっくりとソファーから腰を上げた。
「だけど、俺の気持ち次第で未来が変わる訳でもないし」
「……せやかて、さっきみたいな言い方は…っ」
「嫌な思いしたならごめん。でも実際、ここでの現実は俺の言葉なんかより、ずっと冷酷だよ」
「せやから、なんでそないな言い方しかできへんの…?」
彼の境遇にちょっと同情しかけたけど、やっぱりなんかイライラする。
なんでそんなに淡々と、人の死を受け流すことができるん?
まるで他人事みたいに、あっさりと。
「やっぱりウチ、あんた苦手やわ」
そう言い放てば、彼はそれでも笑顔を崩さずに、それはごめん、と短く呟いた。
そんな彼の態度に、ウチの怒りはついに最骨頂に到達する。
「ウチ、病室戻るわ!」
「もうすぐチビたち来るけど、帰るの?」
「あんたがおるなら帰る」
「俺ならもう病室戻るよ。だからチビたちの相手してあげてよ。よかったら俺がクリーンルームいる間も、たまにさ」
「誰があんたのために!」
そう言い捨てて勢いよく立ち上がった。そんな私を見て、彼はまたごめんね、と笑った。相変わらず、貼り付けたみたいな胡散臭い笑顔だ。
「ゆうちゃん、抗癌剤がんばって。1クールなら髪抜けずに済むかもよ」
それだけ告げて、私が何か反応するより先に、彼は点滴スタンドを気にしながら踵を返して病室に戻っていった。
彼の病室も、個室だった。