君の日々に、そっと触れたい。



彼がクリーンルームに入ってから、2週間が経った。

抗癌剤は副作用がすごくキツくて大変やったけど、彼の予言通り髪はほとんど抜けへんかった。

彼が言い当てたことは、それだけやなかった。

三日前、例の個室の男の子は、亡くなったらしい。そしてそれからすぐに、あの女の子がその個室に移った。

ウチはその話を、よく彼にくっついてまわってる子供たちに聞いた。


「陽ちゃんが死んじゃったから、男で最年長はりくになるな」


小学校高学年くらいの坊主頭の男の子がそうゆうた。亡くなった男の子の名前は、陽一と言うらしい。

陽一くんは、彼の一つ年上の中学二年生やった。

「りっちゃん……このこと知ってるのかなぁ」

「りくが大変な時に、りくママがこんなこと教えると思うか?」

「おもわなーい」

別に彼の頼みを聞いたつもりは微塵もあらへんけど、最近はこうしてデイルームで子供たちとおしゃべりをすることもあった。

その談笑の中で、彼の名前は必ずと言っていいほど登場した。

正直、あんな酷いことを言う人を慕う子供たちの気持ちは理解不能や。


「…でもさ、りくは多分わかってたと思うぜ、陽ちゃんがもうすぐだってこと」


坊主頭くんがやけに根拠ありげにそう言う。確かに、彼は分かっていた。何一つ外すことなく言い当てた。


「坊主頭くんも、李紅くんから未来を当てられるって話聞いたん?」

「は?未来?何言ってんだよ。ただ俺は……りくがクリーンルーム入る前の日、陽ちゃんの病室の扉をずっと見詰めてたから…」

──……ウチが話しかけた時や。

「だから思ったんだよ。りくは自分が戻ってくるより先に陽ちゃんが死ぬって分かってて、病室には入れないけどせめてって、陽ちゃんに最後のお別れしに行ったんじゃないかなって……」

「…………そんな仲良かったん?ふたり」

「大の仲良しだよ。じゃなきゃりくだって、手術の前処置でフラフラだったのにわざわざ会いに行かないよっ」

「……!…そう、…なんだ…………」



───もしかして、ウチ………。

李紅くんにえらい酷いこと言ってもうたんやない………?



『俺だってそうならなきゃいいっていつも思ってるよ。

だけど、俺の気持ち次第で未来が変わる訳でもないし』



彼の言葉が甦る。

きっと彼は、幼い頃からこの場所で何度も友だちを亡くしてきたんや。

その経験のせいで親友の死期を悟ってしもた彼が言った言葉は、きっと心からのものやった。

──せやのに……ウチは怒鳴ったりして…。




「……李紅くんに……………謝らな」


どれだけ傷付けたか、想像もつかへん。

今は会えへんけど……絶対に会って謝らんと……。

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