君の日々に、そっと触れたい。
彼との面会が許されたのは、もうウチが退院した頃だった。
入院中に仲良くなった女の子から連絡を受け、私は電車に乗ってはるばる彼に会いに行った。
彼の病室はまた個室やった。
恐る恐る扉を引くと、真っ白なベッドの奥で、彼は窓から差し込む陽だまりの中で眠っとった。
近づいて顔を覗き込むと、半分白人だからってのもあるんやろうけど、やっぱりゾッとするほど白い。それでも、最後に見た時よりはずっとずっと穏やかな表情や。
「李紅くん………りく、くん」
そっと、静かに名前を呼ぶ。起こさないように声を小さくしたんやけど、なかなか起きない彼に、ちょっと残念な気持ちになる。
「りく……くん。……………な、りっちゃんて呼んでもええ?」
小さい子達がそう呼んでたのが可愛くて、実はちょっと真似したいと思ってたんよ、と言葉を続けてみると、彼は図ったようにゆっくりと瞼を持ち上げた。
「ん。いいよ」
「………なに。狸寝入りしとったん」
「ゆうちゃんの足音で起きてたけど、頭が重くて」
「まだ具合よくないん?」
「今辛いのは、健康になるために俺の血が戦ってる証拠だから。元気だよ」
「なんやその変な理屈」
りっちゃんの身体の中では今、移植したドナーと自分の細胞が戦っとる。そのせいでりっちゃんは、食べれんかったり歩けへんかったりと色々苦労しとるわけなんやけど、どれもこれも元気になるためには仕方ない事なんやて。
だから辛いのもそんなに辛くないんやて、りっちゃんは笑った。
「……相変わらずで安心したわ」
「ん?」
「強がりよるとこ」
「あはは」
りっちゃんは特に否定せえへんかった。
「ねぇ、俺の予言は全部当たったでしょ?」
「…そやな」
「やっぱりね。ね、知ってる?陽ちゃんて友達が居るんだけどさ。そいつの女の子のタイプ、関西弁の小柄な女の子なんだぜ。ゆうちゃんにピッタリじゃない?」
「…せやな。ピッタリやわ」
「陽ちゃんにゆうちゃんのこと………紹介したかったなぁ………」
そう苦笑いをしてりっちゃんは動きにくい身体を無理に翻してウチに背を向けた。
その華奢な背中は、震えを必死に隠しているみたいやった。
素直に泣けばええのに。