君の日々に、そっと触れたい。
「そやったらお墓参りにでも、今度一緒に行こう。私のこと”陽ちゃん”に紹介してや」
「え…………陽ちゃんの実家九州だよ」
「……………飛行機やな」
「乗れるかな…俺」
「…乗ろう。せやからしっかり治してや」
そうだね、とりっちゃんは笑う。相変わらず下手くそな笑顔やけど、泣かれるよりずっとマシや。
りっちゃんだってきっと、単に強がってる訳やない。泣きたくないから笑うんや。
きっとそれは、外の世界にまともに触れずに育ったりっちゃんが生きるうちに学んだことで、笑顔ひとつで人を安心させられるのは、きっとりっちゃんの才能なんや。
そう考えたら、下手くそな笑顔もなんだか愛おしく思えてきた。
「りっちゃんの笑った顔……好きやよ」
りっちゃんのことが………好きやよ。
その言葉を飲み込んだのは、りっちゃんの足枷になりたくなかったから。
その笑顔を、失いたくなかったから。
「俺もゆうちゃんの優しいとこ、好きだよ」
そんなことも露知らず、軽々しく好きだなんて口にするこの鈍感無神経男が憎ったらしいけど、やっぱ好きやわ。
「一つ、聞いてもええ?」
「ん?」
「りっちゃんには、自分の未来も見えるん?」
「たまに見えちゃうけど、あんまり見ないようにしてるんだ。先のことを知っちゃったら、生きる楽しみがなくなっちゃうじゃん」
「…それも、そやね」
「今見えてるのは、ゆうちゃんと飛行機に乗って陽ちゃんのお墓参りに行く未来だけです」
「見えてるんやったら、行くしかあらへんな」
指切りをした。
その時の笑顔が、今でもウチを奮い立たせている。