君の日々に、そっと触れたい。
意識はじきに回復するから心配ないと言われたが、私はどうしても落ち着かなくて眠り続ける李紅の手を握り続けていた。
───まだ、心臓がバクバクと暴れている。
…お母さんは泣いてはいたけれど、取り乱してはいなかった。
それはきっと、今までにもこうゆうことは何度もあったということなんだろう。
そして、これからも…………。
「……李紅ごめん、私なんにも分かってなかった………」
分かっていたつもりでいた。
李紅の背負う運命の重さを、分かっているつもりでいた。
生きるのが怖い、と言った李紅の言葉の意味が、今ようやく分かった。
李紅にとって生きるということは、死と向き合うということだから。
だから…怖くてたまらないんだよね、李紅。
私も怖いよ。李紅の死と向き合うことが。
………だけど、もうあの時みたいに、死なないでなんて駄々こねたりしないから。
だからお願い…………傍に居させて。
不意に、握った手が微かにぴくりと動いた。
反射的に李紅の顔へ向き直すと、蒼い瞳がうっすらと姿を現していた。
「………李紅…っ!」
李紅はぼーっと私の顔を見詰め、次に瞳だけを動かして部屋全体を見渡した。
「李紅、分かる?ここ病院だよ。駅で倒れたんだよ、覚えてる?気分は…どう?」
私の質問攻めに、李紅は戸惑ったように虚ろな瞬きを繰り返しながら、小さく首を振る。
「…………あん、まり……」
酸素マスクのせいかくぐもった掠れた声だったけれど、酷く久しぶりに声を聞いたような気がして、なんだか泣きそうになった。
「…そっか、無理しなくていいよ。あ、今お母さんと先生呼ぶから」
「……ま、って……」
皆を呼びに行こうと立ち上がると、李紅は小さな声でそれを制した。
「……俺が呼ぶから、桜は……ここにいて」
そう言って李紅は、慣れた手つきでナースコールを鳴らした。
「……あ、そっか……。ナースコール……」
「………桜、今何時?」
「…え?えっと……夜の10時くらいかな…」
「…そっか。桜、遅くまでごめん。父さんに家まで、車で送って、もらって」
息苦しいのか、途切れ途切れにそう言う李紅。
………こんな時まで、そんな心配するなんて……。
そんなことはどうでもいい、と強く言おうとした時、病室の扉が勢いよく開いた。
「李紅…………!」
病室に飛び込んできたお母さんは、そのまま飛びつくようにして李紅のベッドに駆け寄って抱きついた。
その勢いに、思わず私は後退る。お父さんは苦笑いをしていた。
「李紅……良かった……」
「母さん、ねぇ……苦しい……」
「あ、やだ、ごめんなさい!」
苦しがる李紅に慌てて身を引いたお母さんを見て、ようやく李紅は小さく笑った。
「李紅、あのね。頭の中に水がたまっていて、それで倒れたのよ。でも手術は上手くいったわ」
「……そう……良かった…」
良かった、と口にしながらも、李紅はなんだか複雑な顔をしていた。