君の日々に、そっと触れたい。
「大丈夫だよ」
次の日の午後から李紅は、一般の病棟に移った。
面会時間が始まる12時に教えられた病室に行くと、扉の前で見覚えのある子供たちが数人こそこそと扉の隙間から中を覗いていた。
「おはよ。なにしてるの?」
「うっわぁ!」
背後から突然声をかけると、小さな背中がぴょんと跳ねる。
「あ、おねーさんあのときの!」
「りっちゃんの”たいせつなひと”だ!」
「あはは、それなんか照れる。桜でいーよ。それより、入らないの?」
そう聞くと、子供たちは一斉に頬を膨らませた。
「ゆうちゃんがダメだって!」
「あんたたちはうるさくするからダメ~だって」
「ああ………」
すごく想像がつく。
「しょうがないよ、夜に目が覚めたばっかりだもん。疲れちゃうから」
「でもー……」
「もう少し元気になったらにしよ、ね?」
そう諭すと、子供たちはようやく頷いた。
「じゃーあした!あしたくるからね!」
捨て台詞のようにそう宣言して、ぱたぱたと帰っていく子供たち。なんだか微笑ましくて、思わずくすりと笑みが零れた。
「───桜?」
不意に病室から声がした。李紅だ。
「ごめん、起こしちゃった?」
「ううん、起きてたよ」
病室に入ると、李紅は寝転がったまま点滴に繋がれた片腕でベッドサイドの椅子を引いてくれた。
「座って。そろそろ来ると思った」
「え?なんでわかるの」
「だって桜、友達居ないから。暇さえあれば俺のとこきてくれるでしょ?」
「うっわ、失礼すぎる」
昨日のしおらしさはどこへやら。
今日の李紅はいつも通り生意気でよく笑う李紅だ。さすがとでも言うべきか。