君の日々に、そっと触れたい。
「なぁ、おい」
そうぶっきらぼうに話しかけてきたのは、じゃんけんに負けたと思われる男子。
焦げた肌と短髪が良く似合う、クラスの中心人物の、今井賢太郎だ。
「あのさ、明日体育委員の集まりがあんだけどさ」
「……へぇ、そうなんだ?」
「そうなんだ、じゃなくて。お前も体育委員だからな」
「へっ?俺が?」
驚きのあまり素っ頓狂な声を出す。
うちのクラスでは全員が何かしらの委員会に入る決まりがある。
でも俺は学校を休んでいたから、その話し合いに参加していない。だから人数の足りてないところに割り当てられるだろうとは思っていたが、まさか体育委員とは。
生まれてこの方、体育の授業に参加したことなんてないのに。
「あ、あのさ。本当に俺でいいの?体育委員。俺、体育参加できないけど…」
「まあしゃあねーだろ、他にやりたがるやつ居なかったんだから。用具の手入れとか体育倉庫の掃除くらいはできるだろ?」
「まぁ、そのくらいは…」
「ならいーよ、お前が出来ないことは俺がやるし。代わりに雑用してくれたら助かる」
「え、あ………ありがとう」
ぶっきらぼうな言い方とは裏腹に、こちらの事情に配慮してくれる今井。
こんな普通にクラスの男子と話せたのは久しぶりで、なんだか戸惑ってしまう。
「じゃあ明日の放課後、体育倉庫前に集合。忘れんなよ」
「あ、うん。ありがとな、わざわざ」
「……………おう」
短い返事をして、俺に背中を向けて男子たちの輪に戻っていった今井。
今井を取り囲んだ男子たちは「どうだった?」とか「よく話しかけに言ったな賢太郎」なんて楽しんでいるようだが、今井はそれらの質問に「別に、普通」とだけ応えた。
──前から、いかつい見た目の割に差別とか偏見を嫌い、正義感が強そうだとは思ってたけど。
予想以上にいい人みたいだ。
もしかしたら、俺に話しかけてきたのだって、じゃんけんに負けたからなんかじゃなくて、自分から率先してその役目を買って出たのかもしれない。
だとしたら、ここで上手くやれば今井と仲良くなれるかもしれない。そしてあわよくば他の男子とも。
これはチャンスだ。
そう思って心の中で気合いを入れ直す。必ずこのチャンスをものにしてやる。
気合いは充分だ。