遠距離恋愛はじめます
2
休憩をはさみながら出来るだけゆっくりやったレポートは終わり担当教授にメールで送信した。
(受け取りましたの返事も貰った)
東京行のスケジュールもほぼ決めた。
どうしよ…やることが無くなってきた。
んー図書館行って卒論の資料集めればもう少し時間潰せるけど、あそこ電波悪いしなー。
電波悪いことを連絡しておく…のは、創さんから言われたわけじゃないのに待ってますって言ってようなもんだし。
ってか、朱音の言う通りに待ってていいのかも微妙…。
テーブルに置いたスマホを前に腕を組みながうーんと唸っていると、悩みの種である創からの着信がきた。
「はい」
『公園の中に屋外ステージあるでしょ?そこまで出て来て』
創は用件だけを伝えると、茉子の返事も聞かずに通話を切ってしまった。
「え、まさか本当に来たの?」
しかも、そこで“待ってて”ではなく“来て”という事は創はもうそこに来ているという事ではないか。
急いで荷物をまとめカフェを出ると、茉子は公園内にあるステージへと走った。
関東よりも北にあるここは5月半ばになってもまだ桜が咲いている。
公園内の桜並木を抜け、反対側に行くとそこに屋外ステージはあった。
祭りやイベント以外で使われている所を見たことは無く、夕方になると人気なんてない場所だ。
半円形になってる座席の真ん中にあの日と同じキャスケットを深めに被った創を見つけ、茉子は一旦足を止めると呼吸を整え近付いていく。
「創さん」
そう声をかけ横に立つ茉子を創は申し訳なさそうな表情で見上げた。
「久しぶり、ごめん遅くなった」
「いえ、それは全然大丈夫なんですけど…え、まさか本当に東京から来たんですか!?」
「うん」
「それは…こっちでお仕事だからですか?」
「いや、今日は休み」
「ならちゃんと休んでくださいよ!創さん最近忙しかったじゃないですか!」
「まぁまだ忙しいのは続いてるんだけど…それよりさ、茉子ちゃん」
自分の隣の席をとんとんと叩き座るように促され、茉子は「失礼します」と座った。
「さすがに寝起きの運転は疲れたわー。ちょっと休憩させて」
茉子の肩にこてんと頭を乗せると創は深く息を吐いていく。
「だから家でゆっくり休んでくださいよ…」
口では出来るだけ冷静にそう言う茉子だが、さっき走ってきた時よりも心臓の鼓動が早くなっていた。
ちょ、ちょっとー!!!
何してるんですかぁああああ!!
肩にこてんとかこてんとかっ!
しかもめっちゃいい匂いしてくるんですけど!
「俺的には茉子ちゃんに会うのが癒しだからいいの」
「なっ!タロジロちゃんに癒されてくださいよ!!」
「あの子らとはまた違うんだって」
創が疲れているのは事実だ。
それに自分の鼓動も落ち着かせたい茉子はしばらくそのままでいたのだが…創の呼吸が寝息っぽく聞こえてきてさすがに焦る。
「は、創さーん?」
「んー…」
良かった、まだ意識はあるみたい。
でもどうしよう…動いてくれない。
あたしは座ってるだけだから良いんだけど、創さんの姿勢って辛いよね?
まだ忙しいって言ってたし、きっと明日も仕事だろうし。
―――ってことは、この後また長時間運転で帰るわけで……ああ~!!もう!
よし、うん。深い意味はない!