遠距離恋愛はじめます
5
アイスティーをちびちび飲みながら目の前で美味しそうにハンバーガーを食べている男性を茉子は眺めていた。
溜息が出るのを必死でこらえながら。
なんでこんな事になってんの…。
今の時間帯、営業している店は限られてくる。
それに、出来れば駅から離れたくなかった2人は結局すぐ目に付いたファストフード店に入り時間を潰すことになったのだが、男性が店員に「会計は一緒で」と言うのを聞いて茉子は慌てた。
「え!?別でいいです!自分の分は払いますから!」
「だめ。これはお礼だから。俺はこのセットでドリンクはコーラ。君は?」
「だからお礼とかいいです!」
「ねぇ、早く決めて。おねーさん怒っちゃうよ?」
カウンターのメニューを指でトントン叩く男性越しに店員さんを見れば、怒ってはいないが明らかな困り顔だ。
これ以上押し問答しても男性は譲らないだろうし、ここで自分が折れないと迷惑でしかない。
「…じゃあアイスティーのSサイズでお願いします」
「食べなくていいの?」
「大丈夫です」
「ガッツリじゃないのもあるけど」
「大丈夫です」
そんなやり取りを思い出しているうちに男性は食べ終わったようだった。
「こんなお礼でごめんね。時間があればもっとちゃんとしたお礼したんだけど」
心ここにあらずだったのは、お礼に不満だと思われたのか申し訳なさそうに言われ茉子は慌てて否定する。
「いえ!そんな…むしろ気を使わせてすみません」
「だって、本当に助かったし。これなかったら家に入れない上にうちの子も迎えに行けなった」
「うちの子って…あ、駅にいたお子さんですか?」
子と言われ待合室で見た母子を思い出し何気なくそう聞けば男性は困ったように笑った。
…ヤバっ。
なに自分から修羅場の話題振ってんのよ!
「えっと、あの~…」
「あの子は違うよ、うちの子はこれ」
そう言って男性は自分のスマホを茉子に見せてきた。
遠慮がちに覗けば、じゃれあってる2匹のゴールデンレトリーバーが待ち受けにされている。
「…子犬?」
「そう、可愛いでしょ?うちの子たち」
「めっちゃ可愛いですけどお迎えって?」
「泊りで家空けることあるからペットホテル使ってるんだ。その引き渡しに必要なタグも鍵と一緒にしてたから」
「なるほど。って、これからお迎えですか!?」
男性がどこまで帰るのかは分からないが、新幹線乗り場に居たという事は近場ではないはずだ。
自分とこんなお茶している場合ではないだろうと、席を立とうとした茉子とは対照的に男性は動こうとしない。