遠距離恋愛はじめます
6(改)
「まぁまぁ、落ち着いて」
「でも、ホテルの時間とか!新幹線の時間とか!」
「大丈夫、迎えは明日なんだ」
「そ、そうなんですか?」
「急いでたらお茶に誘わないし」
そう言われてみればそうかと茉子は中腰になっていた姿勢から椅子に座りなおした。
「レトリーバー好き?」
「はい、大型犬好きなんです。ハスキーとかレトリーバーとか飼うのが夢で」
「飼えないの?」
「んー飼えなくはないんですけど…今も雑種だけど中型犬飼ってて」
「多頭飼いが出来ないとか?」
「いや~そういう訳では…」
ストローで氷をカラカラ回しながら言葉を濁す茉子に、男性はジーと視線を送りその先を促す。
その視線に観念した茉子はボソボソと話し始めた。
「親が血統書付きとかメジャーな犬種ダメなんです」
「は?」
「2人が若い頃に血統書付きのパピヨンを飼ったら3日で亡くなっちゃって」
「………」
「その子が弱かったのかな?ってもう一度同じ犬種飼ったけどやっぱり数日でダメで。あ、うちは大型犬の方がいいのかもしれないって今度はダルメシアン飼ったらまたすぐ亡くなって。雑種は長く生きるのに何で!?ってなってから犬は雑種で中型犬オンリーしか飼えないんです」
「―――――ぶっ!!」
「ちょ、噴出さないで下さいよ!!も~だから言うの嫌だったのに」
「ごめっ…別にバカにしてるわ、わけで…はっ…くくっ」
「してますよね?思いっきりしてますよね!?」
必死に笑うまいと口元を抑えながら肩まで揺らしているが、上手くいかないのか目元にはうっすら涙が溜まっている。
そこまで我慢されるくらいなら逆に爆笑してもらった方がいいのに。と、茉子はムッとしながら男性を睨んだ。
「あ、じゃあ画像あげるよ」
「はい?」
何が「じゃあ」なのか分からないといった顔でポカーンとしている茉子を見ることもなく、男性はスマホをいじってなにやら操作している。
「これ、このメッセージアプリ使ってる?」
見せられた画面には、今の時代使ってない人の方が少ないんじゃないかと思われるよく知っているメッセージアプリが表示されていた。
「使ってますけど…」
「これのさー俺はやった事無いんだけど、ふるふる機能?ってやつ使ったことある?」
「ああ~まぁ」
話の流れから次に言われるであろう事を察した茉子は、どうやってこれを切り抜けるべきかと考え始めた。
「はい、そっちのスマホ出して」
「いや、でもさすがにそれはちょっと…」
「なに、画像欲しくない?うち、わんこ以外にハムスターもいるんだけど」
「ハムちゃん!これまたうちでは飼えない子がっ!!」
癒しをとるか、自分のIDを今日会ったばかりの人(しかも男)に教えるか。
頭を抱えて項垂れてしまうほど、茉子にとっては究極の二択である。
「飼えなくたって可愛い姿を見るだけでも癒されると思わない?」
「それは…確かにそうですけど」
「あ~、俺とID交換するのがネックなんだ!」
「うっ!」
ズバリ言い当てられ、茉子の頭は益々下がっていく。
「あのな、俺だって晒されるリスクあんの」
「な!晒したりなんてしませんよ!!」
心外な!と、茉子が勢いよく顔を上げれば男性は頬杖をついてこっちを眺めていた。
「俺だってやらないよ。人が嫌がることをやってはいけませんって小学校で習ったろ?」
「―――それを貴方が言います?」