遠距離恋愛はじめます
7(改)
あーもう面倒くさくなってきたなぁ…。
まぁ、きっと最初だけで連絡来なくなるだろうし。
何かあったらブロックしちゃえばいっか。
「わかりました。交換してあげます」
少しだけID交換への抵抗が軽くなったように感じる最終手段(ブロック)のお陰で茉子はさっさとアプリを起動させるとお互いのスマホを突き合せた。
「いった?」
「はい、来ました」
アイコンが餌をホッペいっぱいに入れてるハムスターで思わず頬が緩む。
「俺も来た。ああ、大学生だったんだ」
そう言われ茉子は首を傾げた。
自分のアイコンに学校は写っていないはずだ。
「社会人か学生かで社会人の方にヤマ張ってたんだけどさ。コメントの所にレポート終わらないって書いているから…よし、メッセ送ったよ」
メッセージを開くと男性の名前と画像が添付して合った。
【キャスケットの男こと、黒崎創。よろしく】
「え、はじめさん猫も飼ってるんですか!?」
画像にはロシアンブルーの子猫がボールにじゃれ付いているものだった。
てっきり犬かハムスターの画像だと思っていた茉子は、やや皮肉っている本文よりもそっちが気になって仕方ない。
「いや、その子は仕事仲間の愛猫。ってか、俺の名前読めるんだ?ほぼ間違われるのに」
「同級生にこの漢字でそう読む人がいたので、あたしはこの読み方が真っ先に来ちゃいますけど」
「ふーん。ねぇ、所でなにまこちゃん?」
「え?」
アプリの名前は平仮名で“まこ”としているので名前バレは致しかたないないとして、まさか創がフルネームを教えてくるとは思ってもいなかった。
このまま名前だけで逃げ切れるかと思っていたのだが、創の目は「もちろん教えるよな?」と語っている。
一方的とはいえ、向こうは教えてきたのだし…と、茉子はメッセージを作ると創へ送信した。
【佐原茉子です。よろしくお願いします。】
メッセージを確認した創が茉子に視線を戻すとニヤッと笑う。
「ブロックしないでね、茉子ちゃん」
「し、しませんよ!」
すべて見透かされている様な感覚にドキドキしながら、時計を確認した茉子はスマホをしまうとそっと立ち上がった。
「そろそろ電車が来るので行きますね」
「ああ、待って俺も出るから」
店を出て新幹線の改札前に来ても歩みを止めない創に茉子は慌てて声をかけた。
「創さん!改札通り過ぎてます!」
「ホームまで送るよ」
「いえ!すぐなのでここで大丈夫です」
「そう?じゃここで。気を付けて帰ってね」
「創さんもお気をつけて。あの、ごちそうさまでした」
手を振る創にペコリとお辞儀をして茉子は今度こそしっかり行先と何番線かを確認しホームへ向かうと、既に電車は停車していて、急いで乗り込んだ茉子は座席についた途端、やっと帰れると小さく溜息をついた。
まだ週の初めなのに疲れた…物凄く疲れた。
お腹も減ったし。
あ~やっぱ食べとけば良かった!
―――そう言えばついつい名前に反応しちゃって、そっちで呼んじゃったけど普通苗字で呼ぶよね?
一言謝っておくべきかな…年上っぽいし。
でも、向こうもあたしのこと名前呼びだったしなー。
目元隠してたけど、綺麗な顔してたから、こういうの慣れてるってこと?
あ~う~~~ん……まぁもう会う事も無いだろうし、いっか。
突っ込まれたら謝ろう。うん。
そんな事を思いながら電車に揺られている茉子のトートバックの中では、スマホが創からのメールを受信していた。