遠距離恋愛はじめます
ふたりの関係
【おはよ。タロジロに起こされた…眠い】
「もう昼過ぎですけど」
すぐ連絡が来なくなると思ってた創とのやり取りは気付けば2ヶ月を過ぎていた。
てっきりおすすめショットが撮れた時に写メを回してくれるだけかと思っていたのだが、どうもそれは違ったようで画像だったり文章だけだったりとほぼ毎日メールが来る。
返事を打っていると、タロジロがリードを口にくわえ上目遣いで散歩を催促している画像が送られてきた。
「かっわいいな~」
タロジロとは創が飼っている2匹のゴールデンレトリーバーの名前でタロ―とジローと言う。
最初に見た頃より一回り以上大きくなった2匹に茉子はメロメロだ。
大学内のカフェでニヤニヤしていると、目の前の席に人の気配を感じて視線を上げた。
「スマホ見て笑わないの。怪しい人だよ」
そう言いながら椅子を引いているのは高校からの友達である山田朱音<やまだ あかね>だ。
「講義お疲れ~」
「どうせメル彼から写メ来たんでしょ」
「だから、メル彼じゃないってば」
普段、あまり触らない茉子がここ最近ずっとスマホを触っているのに疑問を持ったのが朱音だった。
「何か隠してる!!喋るまで帰さないんだから!」と詰め寄られ、あの日の出来事を話したのだ。
勿論、創には許可を貰って。
ただ、名前もメールも見せない事が条件だと…そこまで秘密主義なら、何故自分と連絡先を交換したのか?と改めて悩んでいた茉子に、話を聞き終わった朱音は「それナンパじゃん!」と言い放ったが、それにはいまいち納得できないでいる。
「なに調べてんの?」
「ああ、東京行くから」
宿や行く場所をまとめていた手帳を見せれば、朱音は目を輝かせた。
「え、なになに?メル彼に会いに行くの!?」
「なんでそうなるのよ…課題だって」
博物館や美術館のホームページを開いたままのパソコン画面を見せれば、つまらなそうに押し返してきた。
「あの1回行った所は行けないっていう博物館巡りの課題か」
「うん。ちょうど上野で観たいのやってるし、泊りで行って他も行く予定だけど、都会って何でこんなにホテル高いんだろーね」
「あ!じゃーさ、メル彼に泊めてもらえば?東京の人なんだよね?」
「いやいや、それはない」
創が東京に住んでいるというのは聞いていた。
朱音には言っていないが「いつでもタロジロ見においで」とも言われている。
社交辞令に違いないのに、本気にして行ったら引かれるに違いない。
何より先月から忙しそうなのだ。
「聞くだけ聞いてみりゃいいじゃん」
「普通に考えて男の人の家に行かないでしょ…」
「でもさ、メル彼ってイケメンなんでしょ?イケメンが自分から連絡先交換とか脈ありだと思うんだけどなー」
そうなのだ。
綺麗な顔してんだろうなぁと思いつつ、ちゃんと顔を見ていなかったので分からなかったのだが、送られてくる写メに時々映る創さんは“イケメンしかも綺麗”というジャンルに所属する人で、朱音にそれを言ってからナンパ野郎はダメだと言っていたのに、やけに推してきて最近ちょっと面倒くさい。
「絶っ対脈アリだって!!」
「も~いい加減怒るよ」
睨みながらワントーン低い声でそう言えば朱音はやっと口をつぐんだが、まだ言い足りないのか口を尖らしている。
その時、テーブルに置いていたスマホが震えだし、画面を見た茉子はギョッとして慌ててスマホを掴んだ。
「ごめん、ちょっと荷物見てて」
朱音が頷いたのを確認すると茉子はカフェを出た。