御曹司と契約結婚～俺様プレジデントの溺愛に逆らえません～

「奏、言ったはずだ。どしゃ降りの雨の中、他人に傘を譲ってびしょ濡れになるような、馬鹿がつくくらいおひとよしなお前だからこそ見初めたんだって。俺は純粋にお前の優しさが愛おしくて、ただ守りたいだけなんだ。政治活動をするために一緒にいるわけじゃない。ましてこんな場で、俺の代わりに責められるようなこと……」

鷹凪の腕に力がこもる。苦しいくらいの愛を受けて、奏は息が止まりそうになる。

「こんなこと、しなくていい。人前になんか立つな。お前は、家でただ俺を待っていてくれれば――」

（そうやって鷹凪さんは、私をずっと甘やかしてくれていた）

鷹凪が作り上げてくれた箱庭は、いつだって優しく奏を包んでくれた。
ふたりだけの世界は甘く、温かく、奏を安心させてくれる。

けれど、美影の姿を見て、その思いは吹き飛んだ。

こんなもの、夫婦のあるべき姿じゃない。

「私だって、美影さんのように、あなたに頼られる人になりたかったんです！」

突然声を荒げた奏に、鷹凪はぎょっと目を見開く。

自分を包み込む優しい腕を振り切って、奏は自立する。自らの想いを伝えるために。