御曹司と契約結婚~俺様プレジデントの溺愛に逆らえません~
都会の喧騒から外れたところにある、雑居ビルの地下、会員制のお忍びのバーで、酒を交わしながら――

「美影と別れようと思う」

そう吐露した相手は本人ではなく、誠司だった。

救いようのない難局に、無意識に助言を求めていたのかもしれない。

兄弟子の誠司は聡明で、そして大胆な思考の持ち主で、いつも鷹凪には思いつかない突飛な案で助け舟を出してくれる。

けれど、今回に限って、誠司の出した答えは鷹凪の求めていたものとは違っていた。

「なら、俺が美影をもらっていいか?」

グラスを揺らし氷をカラカラと弄びながら、さりげなく聞いてきた誠司に鷹凪はぎょっと目を見開く。

「お前……美影に興味が……?」

「お前が美影を幸せにできないって言うから、その役目、俺が引き受けてやろうって言ってんだよ。ありがたく思え」

「思えるか!」

いくら破局寸前とはいえ、彼女を知り合いの、ごく近しい人間に奪われるなんて気持ちのいいものではない。

「じゃあ、別れたら教えてくれ。傷心のところを狙って落とすから」

「……やはり、お前の女癖は最低だ」

「だったら別れるなよ。意地でも繋ぎ止めておけ」
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