御曹司と契約結婚~俺様プレジデントの溺愛に逆らえません~
違う、と奏は心の中で叫ぶ。けれど生まれて初めてのこの状況に緊張してうまく叫びにならない。

「存分に愛してやるから、目を閉じろ」

従ったわけではないが、近づいてきた唇に恐ろしくなって、ぎゅっと瞳を閉じる。
彼から食らわされた二度目の口づけが感覚いっぱいに広がった。

柔らかく、じっくりと、耽美な交わりあい。

事務所で突然押しつけられた一度目のキスは、あからさまに急いでいてまるでやっつけだったけれど、今度は違う。
愛情をしらしめるかのように唇が絡まり合う。

怖い――ついさっきまでそう感じていた奏だったが、一秒、一秒と時間が過ぎていくほどに恐ろしさが薄れていく。
この熱が自分の心から発せられるのか、先ほど飲んだワインがそうさせているのか、わからない。

キスはまるで麻薬のようで、誰かに求められることがこんなにも心地よいとは知らなかった。

いつの間にか身を任せかけている自分に気がつき、ハッとする。

(私、何考えてるんだろう)

彼の指先が体のラインをたどり、服の裾をたくし上げようとしたところで、慌てて目を開いた。

「だ、だめ! ダメです!」

「どうして? 今一瞬、俺を受け入れようとしてただろ」

「そんなに簡単にお付き合いとか結婚とか、決められません!」

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