御曹司と契約結婚~俺様プレジデントの溺愛に逆らえません~
照れるでもなく、本気で嫌そうな顔をされて、さすがの鷹凪もからかう気力さえ失った。

「わかったわかった。なにもしないからそんな顔するな」

「あの……鷹凪さんが嫌とか、そういうわけじゃ……」

「わかったから、もう弁解しなくていい」

ため息とともに立ち上がると、部屋に備えつけてある浴衣とタオルを持って、広縁の奥にある露天風呂へ続く扉を開けた。
けれど、なにを思ったか、不意に鷹凪が肩越しに振り返り、ぶっきらぼうにひと言付け加えた。

「……来てくれても、いいからな」

「……え?」

そのまま鷹凪は扉の奥へ姿を消してしまう。

今のは……奏は頭をぐるぐるとさせながら、そのひと言を頭の中で反芻した。

(来てほしいって、こと……だよね?)

ぎゅっと拳を握り正座しながら、奏は鷹凪の残した意思らしきものと戦う。

振り向いたときの、ちょっぴり寂しそうな鷹凪の顔。自分の嫁としての立場。頑なに拒んできた我が身の振る舞い。そして、初めての旅行……。

一面の花畑を見せてくれた彼の優しさと……今この瞬間の、鷹凪への気持ち。
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