御曹司と契約結婚~俺様プレジデントの溺愛に逆らえません~
「律儀なんだな」

そう言って傘の右側に奏を入れてくれた男性は、目の前にある選挙ポスターと同じ顔をしている。

(うそ……!?)

誰をも魅了する好感度しかない清らかな笑顔がそこに立っていた。

「信号。俺ならきっと渡っちゃうな」

しー、と人差し指を唇に当てて笑ったのは、これから会いにいこうとしていた憧れの青年・吉良鷹凪。
テレビで演説していた時の熱っぽい眼差しから比べて、今は柔らかくて穏やかな瞳をしている。

「それから、ずいぶんとおひとよしみたいだ」

彼の視線は、道の遠い先に向いていた。そこに、先ほど奏が傘を渡したおばあさんがよろよろと歩いている。一連の行動を見られていたらしい。

「自分が濡れるとは思わなかった?」

「……すぐそこに行くだけなので」

「信号に引っかかったけどね」

噂のスーパースターが、隣でクスリと笑う。
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