御曹司と契約結婚~俺様プレジデントの溺愛に逆らえません~
二十一時になって、やっと玄関の扉が開かれる音が聞こえて、奏は忠犬のごとく飛んでいった。
表情は喜びでふにゃふにゃで、きっと尻尾があったらパタパタしていただろう。

けれど、玄関には鷹凪だけではなく篠田の姿もあって、すっと身が引き締まった。

「ただいま、奏。悪い、しばらく篠田と部屋で打ち合わせする」

「すぐに帰りますから。少々失礼します」

それだけ言うと、夕飯も食べずに自室へと入っていってしまった。

奏の中で温められていた感情が、すっと冷めていく。

もしかして鷹凪は、妻に会いたいからではなく、この家を会議室として使いたいがために帰ってきたのだろうか。

(寂しかったのって、私だけなの?)

急に胸の奥からふつふつと怒りが湧きあがってきた。

どうしてだろう、あんなにも会いたくて、愛おしくて、大好きだったはずの鷹凪のことが、今は憎らしくて腹が立って仕方がない。

大好きなのに大嫌い、そんな矛盾した感情を、初めて鷹凪に抱いた。
それはまるで子どもの頃、母親を仕事にとられてしまったときのような自分勝手な焼きもち。
< 57 / 147 >

この作品をシェア

pagetop