いつかの星の下で
こうして小学校生活も
悠輝と一緒に過ごすことになった。
一緒に過ごす、と言っても
学年が違う悠輝とは
毎日顔を合わせる訳でもない。
次の年も、その次の年も
悠輝を迎えた日のように
拍手で新入生を迎えた。
只ひとつ違ってきていたのは、
小学生の癖に
どことなく捻くれていた私は
その当時特有の流行や
周りの話題についていけず
妙に大人ぶりたがっていたせいで、
完全にクラスの中で
浮き出していたこと。
それをネタに
からかわれたり
無視されたりしていたこともあり、
必然的にひとりで過ごす時間の方が
多くなっていたことだった。
その日も私はひとりで
一階の踊り場にあった
ピアノを弾いていた。
母親が独身時代に習っていたとかで、
幼稚園に通い出す前から
家にあったピアノを弾いていたからか
音楽が好きになって、
私も習い始めた頃だった。
TV番組やCMで聴いた曲のメロディを
適当に思い出しながら、
鍵盤に指を滑らせて遊んでいると、
「絢ー、何やってんのー??」
突然聞こえてきた声に
驚いて指を止める。
後ろに、悠輝がいた。
「何って…」
見れば分かるじゃん、と
心の声で呟きながら
目線をピアノから悠輝に移す。
「なんかたまにピアノの音
聞こえんなーって思ってたら、
絢だったんだ」
初めて声をかけてきた時と変わらない、
人懐っこい笑顔を浮かべながら
言葉を続ける悠輝。
だけど、そんな悠輝の笑顔が怖かった。
悠輝が怖かったんじゃない。
私と関わることで、悠輝まで
からかわれることが怖かった。
悠輝の笑顔が奪われることが
怖くてたまらなかった。
自分から周りを拒絶したのに。
だからこそなのか。
悠輝には
笑っていて欲しかった。
私と関わっちゃダメだよ。
だから誰もいないうちに、
私から離れて、
どこかへ行って。
じゃないと、悠輝まで…
心には浮かぶのに、
どうしても声になってくれない。
私は目線を悠輝から
白と黒の鍵盤に移して
滅茶苦茶に指先を動かして
不協和音を鳴らした。
言葉にならない思いを
ピアノにぶつけて
悠輝を遠ざけようとした。
それでも悠輝は、
昼休みが終わるまで、
滅茶苦茶な音と、
ぐちゃぐちゃな想いのままの
私の傍にいた。