副社長の一目惚れフィアンセ
玄関のドアの音がしたと思ったら、足音が近づいてきた。

時計を見ると、私が帰って来てから30分も経っていない。

「明里」

ナオは部屋を開けて覗き込み、私のそばに来てしゃがみこんだ。

「ナオ、途中で帰って来ちゃったの?」

「もうみんなけっこう酔ってたし、仕事の用事が入ったって言って少し早く抜けてきた」

「ごめんなさい。せっかくみんな楽しんでたのに」

「いや、日吉が謝ってた。明里に悪いことをしたって」

ナオの大きな手が、私の手を包み込む。

「悪かった。嫌な思いをさせた」

「…笑って聞き流せばよかったの。なのに、私…」

握る手に力がこもって、ナオは微笑む。

「俺は嬉しかった。違うんだっていう強い気持ちが、涙になっちゃったんだろう?そういう純粋なところも、明里のいいところだ」

ナオの言葉に安堵したけど、胸のモヤモヤは消えない。

日吉さんの件より前に、斜め向かいの男性が言っていたことが気になっていたのだ。

だからこそ、余計に動揺して聞き流せなかったのかもしれない。


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