副社長の一目惚れフィアンセ
「…ねえ、お友達が言ってた。ナオには忘れられない人がいたんだって」

ナオの身体がピクッと動いたのがわかって、自分で言っておきながらショックを受けた。

本当のことなんだと、動揺してしまうほどのことなのだと、一瞬のナオの変化だけでわかってしまったから。

その話については彼らから聞いていなかったんだろう。

少し沈黙したあと、ナオは座り込んで私を真っすぐに見据える。

言葉に嘘がないことを証明するために、ナオが私の目を見て話そうとしてくれているんだということはすぐにわかった。

「長い間忘れられなかったのは確かだ。だけど、時間が経てば記憶も傷も色あせる。
だから、頑なに他の女性を拒むほど引きずっていたわけじゃない。
そんなにロマンチックなものじゃないんだ。
結婚したいと思えるほどの女性に出会えなかったのはたまたまだ。
…信じられないか?」

少し考えた後、ゆっくりとかぶりを振って、ナオの背中に手を回した。

ナオもそれに応えるように、私をぎゅっと抱きしめる。

つまらない嫉妬はしたくない。ナオは今ここにいて、私を抱きしめてくれている。

それが全てだ。


「…ナオ」

「ん?」

「愛してる」

ナオの腕に力がこもって、ナオは嬉しそうに笑った。

「初めて言ってくれたな。俺も愛してるよ、明里」


涙が浮かんだ。

過去なんてどうでもいい。ナオは今、私を愛してくれている。

じゅうぶんすぎるくらいの幸せが、ここにあるのだから。

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