副社長の一目惚れフィアンセ
重い扉の音が聞こえて、嫌な予感がして振り返った。

案の定、ただいま、と言いながらリビングへ入って来るナオの姿がある。

私が電話をしていることに気づいて、ナオは申し訳なさそうに足音を潜めた。

だけど、ナオの『ただいま』の声をお母さんは拾っていた。

『あんた、今旦那さん帰って来てるの?』

「え…うん…」

『ちょっと挨拶くらいさせてよ!
そもそも旦那さんから何の挨拶もないなんておかしいでしょう?』

「旦那さんじゃなくて婚約者だってば…お願いだから失礼なこと言わないでね」

『わかってるわ。あんたが副社長に捨てられたら困るもの』

お母さんが酔っているのはわかるけど、こんな言い方をされるのは悔しい。

唇を噛みながら、ゆっくり電話を耳から離した。

きっと、お母さんと話したらナオが不快な思いをする。

そう思ったから、ふたりが話す機会を作らないようにしていたのに、やっぱりそれにも限界があった。

いつまでもこのままではいられない。

「…ナオ、お母さんが挨拶したいって」

ナオは驚く様子もなく、うなづきながら私からスマホを受け取った。




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