副社長の一目惚れフィアンセ
「もしもし。初めまして。水嶋と申します。
ご挨拶遅れて申し訳ありません」

ナオは緊張したように少し早口で、電話越しのお母さんの声はスマホから漏れている。

『いいえ。娘をもらってくれてありがとうございます。
あの子は、何にも取り柄のない子でねえ。
どこを気に入ってくれたのかわからないけど、どうかよろしくお願いしますね』

さっきまでの厳しくて乱暴な口調とは大違いの、余所行きの声。

「いえ、家事も仕事もきちんとしてくれています。
立派なお嬢さんをいただいて感謝しています」

『そんなお世辞はいいんです。
ホントにあの子は何にもできない子で…お姉ちゃんはなんでもできたのに、いい遺伝子はお姉ちゃんに全部言っちゃったんです。
何をやってもダメなんですよ?本当に、同じ姉妹でどうしてこうも違うのかしら』

耳を塞ぎたくなるような言葉が次から次へと出てくる。

私に聞こえないと思っているんだろうか。

全否定だ。私はお母さんに認めてもらえない。

それをただただ思い知らされる。

俯く私の手を、ナオはぎゅっと握りしめた。

「明里さんを悪く言わないでください。
俺にとっては、最高のフィアンセですから…」

『最高だなんて、ありがたいです。明里を嫁にもらってくれる男性なんていないと思ってたから、夢みたい』

耐え切れずにナオから電話を奪い取って、

「お盆のことはまたこっちから連絡するから」

そう言って一方的に電話を切った。



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