副社長の一目惚れフィアンセ
その日、初めて私たちは身体を重ねた。

「明里、無理はしないでほしい。
もう…気持ちの準備はできてるんだよな?」

心配そうに確認するナオに、私は微笑んでうなづく。

「うん、ナオともっとくっつきたい」

ナオはゆっくりと唇を近づけて、深いキスをした。

ナオのことはとっくに信頼していた。

ただ、長い間臆病になっていたからか、漠然とした不安が消えなかっただけだ。

だけど、そんな自分が馬鹿らしくなるくらい、ナオは丁寧に全身にキスを落として愛してくれる。

唇から、指先から、全身からナオの気持ちが伝わってくる。

「…ねえナオ」

「ん?」

「名前…呼んで?」

ナオは理由を聞かずやさしく微笑み、その形のいい唇をゆっくりと動かす。

「…明里…明里」

「ナオ…」

「明里…」

いつの間にかひとつに溶け合った身体はとても熱く、汗ばむ肌さえ愛おしい。

「…明里…」

どうしてだろう。ただ名前を呼ばれているだけなのに、こんなにも満たされた気持ちになる。

「あか、り…っ」

ナオが私を呼んでくれる声に応えたいのに、息が上がって言葉にならず、ただ夢中で喘いで、そして…

果てて倒れこんだナオをギュッと抱きしめた。


信じることを怖がってばかりいた私。

本当は、私のことなんて好きじゃないんじゃないか。

ただ身体目当てなんじゃないか。

不安で、この行為に苦痛さえ感じていた過去。


好きな人とひとつになることが、こんなにも幸せだということを、今日初めて知った。






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