副社長の一目惚れフィアンセ
7.一目惚れの理由
1年で1番嫌なお盆の時期が来た。

この日はお母さんと一緒にお墓参りをして、そのまま平塚のアパートに行く。

そして『詩織』の話をさんざん聞かされて帰るのだ。

ナオは積まれた仕事が片付かず、お盆返上で仕事をしている。

忙しいナオには申し訳ないけど、正直ホッとしている。

直接お母さんに会って、電話の時のような話をされたら、ナオが暗い気持ちになってしまう。

そして、お盆返上ということは、私もナオのご実家にご挨拶に行かなくていいということだ。

いずれは行くんだろうけど、とりあえずは免れてホッとしている。

今度ナオに相談して、マナー講習でも受けられるようにしてもらおう。


今日は猛暑日だと、テが言っていた。

お母さんとは最寄り駅で待ち合わせをして、タクシーで高台の手前まで行った。

お母さんはもう石段を上るのがきついらしい。

時々立ち止まって腰をトントンと叩き、バランスを崩しそうになりながら歩き進む。

私は花と水を持ってそれを後ろから見ながら、この人も歳をとっていくのだ、と当たり前のことを思った。

15年経っている。お母さんの中の時間は止まっているのに、身体は15年分衰えている。

そういえば、白髪もずいぶん増えたな。

年に1,2度しかまともに会わないから、そんなことすら私にとっては発見で、少し切なくなる。



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