副社長の一目惚れフィアンセ
部屋に着いて、私はソファに体育座りをしたまままいつものクッションを抱きしめていた。

少ししてドアが開き、いつも通りナオが帰って来た。

「ただいま」

「…おかえりなさい」

ネクタイを緩めながら、ソファの隣に座り、私に軽いキスをする。

「大丈夫だったか?お母さん…」

「…はい」

大丈夫じゃないよ。お母さんのことじゃない。

もっと…重要なこと。

ナオはクッションをはずし、私の背に腕を回して髪の毛を丁寧に撫でる。

ナオの背に腕を回すことはできなかった。

だって、ナオが本当に必要としているのは私の手じゃない。

私の温もりじゃない。

「もしもお母さんに否定されても、俺は明里が大切だ。
そのことは忘れないでほしい」

よくそんなことが言えたもんだなと思ったら可笑しくなった。

今まで言ってくれた言葉全部が…それを信じてしまった自分自身が…

可笑しくて、愚かで、悲しくてたまらない。



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