副社長の一目惚れフィアンセ
どこに行けばいいんだろう、なんて考えたって、行くあてのない私の頭に最初に浮かぶのはいつも紗耶と瀬名だ。

昼間は町田にいたけど、紗耶はもしかしたら準夜や夜勤で帰って来ているかもしれない。
仕事中だったらと思うと電話は躊躇ってしまう。

だけど、普通の会社員でまだお盆休みのはずの瀬名なら…

久しぶりに画面に表示される『瀬名』の文字。

紗耶はともかく、瀬名はまだ町田にいる可能性のほうが大きい。

向こうの友達と飲み会をしたりしているかもしれない。

これで瀬名が電話に出なかったら、私はこの世の終わりのような気持ちになるかもしれない。

だけどそんな心配とは裏腹に、瀬名は3コールで電話に出た。

『…もしもし?』

「瀬名ぁ…」

『えっ何!どうした!?』

声を聞いた途端、気が緩んでまた涙が止まらなくなった。

「助けて…」

『落ち着け。今どこにいる?』


普段騒々しい兄妹だけど、こういうときとても頼りになる。

いつも真剣に私を心配してくれるからこそ、引っ越したあとも私は瀬名と紗耶に何度も救われてきたのだ。


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