副社長の一目惚れフィアンセ
瀬名と紗耶のアパートで、私は階段の隅に座って瀬名の帰りを待っていた。

階段を上っていく人が、警戒するように私をじろじろ見ながら部屋に入って行く。

ストーカーだとでも思われているんだろうか。

おかしな世の中だ。待ち合わせさえろくにできやしない。


街灯に群がる羽虫を見つめながら、どうしてそんなところに集まるんだろう、とぼんやり思った。

朝になれば街灯の下では羽虫がたくさん死んでいる。

気づいてほしくてひたすらに鳴き続ける蝉と同じだ。
光に焦がれてパタパタと飛んでいるその様は。

そんなことにさえも感傷的になって、自分と重ね合わせてしまう。

愛されたくて、必死にもがき続ける私。

その先にあるものは一体何なんだろう。


ガタガタと駆けてくる足音に安堵の気持ちが広がった。

騒々しい音ですぐにわかる。

視界に映った瀬名は、息を切らしながら

「お前っ大丈夫かっ?」

滑り込むように私のそばに膝をついた。

町田からわざわざ帰って来てくれて、駅から10分の道のりを走ってきてくれたんだろう。

それを思ったら、申し訳ないよりも先に嬉しい気持ちになって、腫れぼったい目のまま小さく笑った。


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